「多胎育児と乳幼児揺さぶられ症候群について」

 今月(2013年12月)初めに、愛知県で双子女児の虐待死亡事件が報道されたことは記憶に新しいと思います。事件そのものの経過については、警察や司法が今後調査や裁判を進めていくでしょうからここでは触れません。この事件の虐待方法として、乳幼児揺さぶられ症候群(Shaken Baby Syndrome:SBS)の疑いがあることが報道されています。また、2010年に滋賀県で起きた双子の虐待死事件でもその原因は同症候群の可能性が極めて高いと報告されています。今回お話しするのは、多胎児に対する虐待とSBSの関係についてです。SBSそのものについては、日本小児科学会などでも強く普及啓発を行っているので、多くの育児者・育児支援者の知るところになっていると思います。

 多胎児に対する児童虐待の方法を具体的に記述した症例報告は、国内外を通じてもそれほど多くありません。その中で、頚椎損傷、頭部損傷あるいはSBSはこれまでにも比較的散見されるものです。ただし、1990年前後の古い研究報告では、たまたま症例が多胎児であっただけであり、研究者自身の関心が多胎児にはない場合もあります。

 多胎児とSBSの関係について本格的に論じた最初の報告は1998年のBeckerらだと思われ、4ペア中5児の重症SBSの双子事例を報告しています。多胎育児が親に過度の精神的負担を与えた可能性があり、これに関連する要因としてストレスフルな状況や家族機能不全を促進するのが両親の社会的孤立であり、双子育児に要求される多大な時間と体力消耗の結果であるとしています。症例報告だけでは多胎児とSBSの関係は示唆されても、果たして多胎児における発生頻度が単胎児と比べて高いのかはわかりません。
 
 2008年にエストニアの研究グループが2つの高度医療施設におけるSBSについての報告をしています。同医療施設では1997年から2003年までに26件のSBS症例が同定されています。そのうち多胎児が4例存在したと言います。いずれも別々のふたごペアからの1児です。全体に占める割合は15.4%(=4/26)であり、エストニアにおける双子の割合(2.1%)よりも高い頻度であったと言います。入院時の平均月齢は3.9か月です。多胎児における発生頻度の高さは、正しくは単胎児における発生頻度と比較すべきですが、そのような分析上の問題はともかくとして、双子においてSBSの発生頻度が高くなる可能性が示唆されています。外来患者記録によれば、児の入院や死亡に先立って、大部分の両親(26事例中23事例)が、家庭医やその他の専門家に「児の過度の泣きや興奮性」について相談していました。研究チームによれば、(生後初期を除けば)児の泣きの頻度(1日当たりの泣き時間)が強まる週齢とSBSの発生頻度が高まる週齢が類似し、大体生後6~7週がピークであったと言います。特に双子家庭では、SBSの発生頻度が高まるので、もし児の過度の泣きに対する育児困難などを両親が訴えたのであれば(医療面接で言えば主訴です)、両親を注意深くカウンセリングするきっかけにすべきであると結論付けています。今のところ、この報告以外には、多胎児とSBSの関係についての大規模調査は見当たりません。

 国内には、多胎児に対する虐待とSBSについての報告は、症例報告以外には見当たりません。以前このメルマガで、多胎児虐待死亡事例において、冒頭に述べたようにSBSを強く疑わせる事例があったことを報告しました。厚生労働省の「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第6次)」によれば、2008年4月から2009年3月までの全虐待死亡事例に占めるSBS症例は、3歳児未満の1%(=1/86)であったと報告されています。従って、多胎児におけるSBSの頻度(上記の厚生労働省の死亡事例等検証結果の全期間を通じて7%=1/14)はかなり高いと言えます。ただし、繰り返し述べるように、虐待死亡事例やSBS事例そのものが少ないので断定的な結論は下せません。また、これも繰り返しになりますが、本来事例が0になることが虐待予防の目的となります。

 児の泣きとSBSの関係は多胎児に限定されたものではありません。ただし、多胎児の場合には、同時泣き・交互泣きなど、一般育児の視点だけでは見落とされるかもしれない、固有の条件が付随してきます。ピアサポート活動や多胎育児教室などの多胎育児支援の場においても、児の泣きに対する訴えが強い母親には、それを見逃さず積極的なサポートをする必要があると言えるかもしれません。また、多胎児の泣き方についてのいろいろな経験談や対処法を提供することも、場合によっては有用かもしれません。

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