「日本における単一胚移植の普及と多胎妊娠に対する影響」

国内で過去30年間に多胎出産が倍増した主な原因が不妊治療であることはご存知だと思います。一般に、高齢出産では自然の多胎(主に二卵性ふたご、一般には多卵性多胎)出産が増えるので、高齢出産による自然の多胎出産の増加も影響しているのではないかと考えられがちです。しかし、実際にはその影響は不妊治療の影響に比べれば小さなものです。

多胎妊娠では様々な周産期のトラブルが付随するので、不妊治療の現場では、極力多胎妊娠を避ける(単胎妊娠を目指す)ことになります。

不妊治療は大きく分ければ、排卵誘発を主とした一般不妊治療と、その後に生殖補助医療(ART:体外受精・胚移植、顕微授精など)を行う場合に分かれます。排卵誘発により複数の卵を誘発するにせよ、ARTで複数の受精卵(胚)を子宮に戻すにせよ、不妊治療で多胎が増加すること自体は明らかだと思います。

そこで、不妊治療による多胎妊娠を減らすのに確実だと考えられる方法の一つは、ARTにおいて胎内に戻す胚の数を制限することです。理屈からすれば、2つだけ戻せば三つ子にはなりませんし、1つだけ戻せばふたごになりません。このようにして、不妊治療の現場では、技術の進歩などによって、次第に胎内に戻す胚の数を減らす方向に進んでいきました。

現在では、先進国の多くでは原則として胎内に戻す胚の数は1つにしています(単一胚移植)。日本では2008年より単一胚移植の方針が日本産科婦人科学会のガイドラインとして出されています。
日本における単一胚移植と多胎妊娠の関係を見てみます。詳しくは、Journal of Pregnancy, Volume 2012, Article ID 620753, 7 pages, 2012, http://dx.doi.org/10.1155/2012/620753 に掲載されています。

前回も書きましたが、ARTによる多胎妊娠・出生に関するデータは非常に限られています。卵性に関する情報は基本的にはないといえます。日本産科婦人科学会では、毎年「体外受精・胚移植等の臨床実施成績および(生殖医学の)登録施設名」を公表しています。

2007年以降では単一胚移植の成績が報告されています。2007年ではARTによる妊娠全体のうち単一胚移植による妊娠の占める割合は50%弱であり、ARTによる多胎妊娠の割合は11%です。
その後単一胚移植が普及し(現時点の最新データである)2011年の段階では、ARTによる妊娠全体のうち単一胚移植による妊娠の占める割合は78%程度であり、ARTによる多胎妊娠の割合は4%程度まで低下しています。

ちなみに、1992年から1996年頃ではARTによる妊娠のうち多胎妊娠の占める割合が一貫して18-20%です。この時期にはまだ単一胚移植はそれほど普及していませんから、複数胚移植での多胎妊娠の割合と考えてよいと思われます。単一胚移植が多胎妊娠の減少に対して、非常に効果が大きいことが分かります。

このように、単一胚移植による多胎発生の減少は顕著な効果を見せています。過去5年分のデータの値で図を描けば、このままで行けばあと数年でARTによる多胎発生がなくなるのではないかと思わせる勢いで、単一胚移植による妊娠の占める割合の増加と共に、多胎妊娠の割合が毎年‘ほぼ直線的に’減少していることが分かります。

しかし、本当に直線であれば、単一胚移植が100%普及する前に多胎妊娠がなくなってしまいます(現実には100%普及することはありませんが)。実際には、単一胚移植による妊娠の占める割合の増加と共に、多胎妊娠の割合は‘非常に緩やかなカーブを描いて’減少しています。仮に、この緩やかなカーブを描いたまま減少していくと、単一胚移植が100%になっても多胎妊娠が1.3%程度残る推定になります。限られたデータしか公表されていませんので、この数値自体は何ともいえませんが、結論からいうと、単一胚移植だけをしても多胎妊娠は残るということです。

その理由はなぜでしょうか。不妊治療で増加するのは二卵性のふたごだというのが一般的な考えです。もちろん、このこと自体は間違いありません。しかし、不妊治療が普及し始めたかなり初期の段階から、不妊治療により一卵性ふたごも増加していることが報告されてきました。

1987年には排卵誘発後の一卵性ふたごの増加が、1993年にはARTによる一卵性ふたごの増加が報告されています。なぜ、一卵性ふたごが増加するのか、その詳細はいまのところ不明です。しかし、受精卵が分裂しやすい何らかの理由があるということです。最近では、より卵割(受精卵の細胞分裂)が進んだ段階での胚移植の方が、一卵性ふたごが発生しやすいことが報告されています。

実は、自然妊娠を含めて一卵性ふたごが発生する詳細なメカニズムは今現在も不明な点が多いのです。その意味で、単一胚移植後の一卵性ふたごの発生は、一卵性ふたご発生のメカニズムに迫る貴重な事実として注目されています。

実際に、どの程度の頻度で一卵性ふたごが発生しているのかは報告によってまちまちです。しかし、海外の多くの調査結果をまとめると、少なくとも自然の状態(人種や時代によらず大体、妊婦1000人に対して3~4人が一卵性ふたごを生むとされます)と比べて2倍以上多いと推定されています。ARTを受けた妊婦全体のおよそ1%弱が一卵性ふたごを妊娠しています。単一胚移植の例だけに限れば、さらに多いのではないかという予想もあります。上述の全国データで推測しても 前述のように1.3%程度になります。以上のように、数的には少ないですが、単一胚移植によっても多胎妊娠のリスクは自然の状態よりも2倍程度は高くなるという事実は、不妊治療のカウンセリングの際などにも必要になるのではないかと思われます。

一部修正あり 2013.10.8

(大木秀一:石川県立看護大学健康科学講座 日本多胎支援協会理事)

JAMBA News №38 より