多胎を対象とした研究について

多胎(特にふたご)に関する研究は、主として独立した3つの領域で行われています。

(1) 人類遺伝学領域における研究

第1に、人類遺伝学領域における「ふたご研究法」です。
ご存知のようにふたごには、一卵性ふたごと二卵性ふたごの2種類があります。
一卵性は、もともと1個体として発育すべき1つの受精卵が卵割の初期に、多胚化(分離)を起こして2個体として発育したものです。従って、原則として同性ペアであり、遺伝的構成(ゲノム)は100%等しいとされます。
一方、二卵性は多排卵により2つの卵子が排卵され、それぞれが別々の精子と受精し、2個の受精卵が同一の子宮内で発育したものです。従って、同性ペアも異性ペアも存在します。同一の子宮内で育った兄弟姉妹であり、遺伝的な類似度も通常の兄弟姉妹と同じで、平均して50%です。これは、非常によく似ているペアからそれほど似ていないペアまで様々だと言うことです。
一卵性ペアと二卵性ペアの遺伝的な類似度の違いを利用して、ヒトの様々な形質(性質や特徴)における遺伝要因と環境要因の寄与の程度を集団レベルで分析するのがふたご研究法です。

ヒトの形質で、
①一卵性ペアの二人はゲノムが一致するから、ペアに差が見られた場合、それは環境要因の違いによる。
②一卵性ペアは二卵性ペアよりも遺伝的な類似度が高いから、一卵性ペアの類似度が二卵性ペアの類似度よりも大きければ、それは遺伝要因の影響による。
この事実を集団レベルで定量的に実証するのがふたご研究法です。遺伝学・疫学の両者に有用な研究デザインです。
三つ子以上を対象とすることはまれです。

現在でも、行動遺伝学、心理学・精神医学の領域で盛んに研究が行われています。
この研究デザインの歴史は古く、1875年にフランシス・ゴルトンが研究報告をした時点まで遡ります。
ゴルトンはふたご研究の創始者とされていますが、この報告では一卵性ペアと二卵性ペアの区別はしておらず、似ているペア、似ていなペアと言った区別だけです。しかし、(メンデルの法則が再発見される以前に)ふたごペアの類似の違いを利用して遺伝の影響を推定しようとした着想は極めて卓越したものと言えるでしょう。
一卵性と二卵性を区別して比較するようになったのは1920年代前半以降とされます。

 

(2) 生物学・産科学領域などにおける多胎そのものの研究

第2に、多胎そのものを研究の対象とする領域です。
これは、残りの2領域(人類遺伝学、多胎育児支援)以外の全てを含むと考えてもよいでしょう。この領域の研究の歴史はさらに古く、中心となるのは生物学あるいは医学(主に産科学)における多胎の研究です。

それ以外にも、多胎にまつわる民俗学、文化人類学、文学(物語)の研究などがあります。産科学領域では多胎妊娠の管理から、多胎妊娠に固有な病態、近年では生殖補助医療と多胎発生などに関心が寄せられています。
多胎妊娠・出産の事例報告も多くあります。産科学領域の専門誌では定期的に「多胎」の特集号が組まれます。

 

(3) 公衆衛生学領域などにおける多胎育児支援の研究

第3に、多胎児や多胎家庭の支援に関する研究です。
これは多胎育児支援という実践活動を念頭に入れており、主として公衆衛生学・看護学・保育学などの領域に見られます。
国内では乳幼児期の育児が中心ですが、海外では学童期、さらには成人期以降の多胎支援に関する研究も多くあります。多胎児や多胎家庭に固有の課題やニーズが独自の研究領域であると認識されるようになったのは最近20~30年のことです。
海外では1970年代ころから、国内では1980年代後半から研究報告が出始めたと思われます。これは不妊治療の一般的な普及により、多胎妊娠(出産)が急増する時期と符合します。

国内専門誌で多胎育児支援の特集が初めて組まれたのは1998年の『助産婦雑誌』だと思われます。学術的な知見の蓄積は産科学や人類遺伝学に比較すると、研究の歴史の短さを加味しても圧倒的に少なく、あまり注目されにくい研究テーマだといえます。多胎児(特にふたご)あるいは多胎家庭は、歴史的にいえば支援の対象というよりも、純粋に研究・医療の対象となっています。

 

(4) 雑誌特集号から見る最近の国内動向

1995年以降に保健医療系専門誌で多胎を特集したものは36誌程度見出せました(2015年9月現在)。
多胎に関する特集のうち、23誌が産科臨床系雑誌であり、公衆衛生学・看護学・保育学系の雑誌などが12誌です。ふたご研究法の特集は1誌(精神医学)に過ぎません。多胎育児支援の特集を組んでいるのはいずれも産科以外の雑誌であり、2009年以前の29誌では3誌に過ぎませんが、2010年以降の7誌では4誌に増加します。2010年に日本多胎支援協会(JAMBA)が誕生したことが関係していると思われます。

なお、JAMBAに関わる内容は、『チャイルドヘルス』誌(診断と治療社)の特集号(2010年10月号)で『多胎育児の支援とポイント』としてまとめられています。産科臨床系の雑誌では多胎妊娠・出産のリスク、臨床技術に関する記述が大半です。そこには(特に古い特集号では)多胎家庭に対する支援という視点はあまり見られません。

 

(5) 領域横断的な研究の必要性

多胎研究における上述の3つの研究領域は、簡単にいえば多胎(ふたご)「による」研究、多胎「の」研究、多胎「のための」研究です。
各領域に固有な研究テーマもあります。
例えば、行動遺伝学における「構造方程式モデリングの構築」、産科学領域における「多胎妊娠管理」、公衆衛生学領域における「多胎家庭が利用できる社会資源」などです。以上は、研究テーマとして他の領域と共有しあうことは少ないでしょう。しかし、多胎の発生メカニズム、多胎の人口動態、多胎の卵性診断、多胎の成長・発達、ふたごの利き手などは生物学・医学及び人類遺伝学の境界領域として古くから研究テーマとなっています。
専門領域が異なるとはいえ、同じ集団(多胎・ふたご)を研究対象とする以上、視点を変えればこの3領域は本質的には相互に強く関係しています。

多胎育児支援の実践活動を考えた場合に、単に公衆衛生学・看護学・保育学領域の研究だけでなく、人類遺伝学や産科学、生物学、民俗学、文学など他の研究領域で得られた知見を加味することで、支援に深みが出ると言えるでしょう。境界領域の研究テーマというのは、予め設定されているというよりは、どれだけ他の領域の研究との関連性を見出すかという目的意識と、多胎研究に関する知識の量に依存するといえます。

 

本稿は平成27年10月16日に岐阜聖徳学園大学で発表した内容を要約したものです。発表の機会をくださった日本多胎支援協会理事の松葉敬文先生に御礼申し上げます。

大木秀一