はじめに
ICOMBO(国際多胎支援組織協議会) のミッションは多胎乳幼児・小児・成人の特別なニーズが注目されるように推進することである。ICOMBO のメンバーは世界中の国々からなり、この「ふたご・多胎児の権利の宣言とニーズの声明」を発展させてきた。この「ふたご・多胎児の権利の宣言とニーズの声明」によって多胎児の特別なニーズに応えるための様々な社会資源が充実していく様子を評価し、こうした活動を推進する際の基準となるものである。
2007年版声明はCOMBO議長Kimberley Weatherall の確認を取り、日本語で広く普及することを目的に大木秀一(石川県立看護大学)が翻訳した(2009 年1 月14 日)。
2020年版声明はICOMBO議長Monica Rankin より依頼を受け、JpMBAのICOMBO担当理事・松葉敬文(岐阜聖徳学園大学)が大木訳をベースに翻訳した(2020 年11 月03 日)。
※注):COMBO(多胎組織協議会)はICOMBO(国際多胎支援組織協議会)の前身です。
はじめに
ICOMBO(国際多胎支援組織協議会) のミッションは多胎乳幼児・小児・成人の特別なニーズが注目されるように推進することである。ICOMBO のメンバーは世界中の国々からなり、この「ふたご・多胎児の権利の宣言とニーズの声明」を発展させてきた。この「ふたご・多胎児の権利の宣言とニーズの声明」によって多胎児の特別なニーズに応えるための様々な社会資源が充実していく様子を評価し、こうした活動を推進する際の基準となるものである。
ふたご・多胎児の権利の宣言
多胎児の起源に関しては神話や迷信があり、国や地域によっては文化的に制裁的な追放や幼児殺害(間引き)を招いた。こうしたことに対して、
Ⅰ.多胎児やその家族には法的に十分に保護され、いかなる種類の差別も受けない権利がある。
多胎妊娠や多胎児のケアは多胎児家庭に健康面および心理社会的なリスクを増加させる。また遺伝要因や不妊治療薬(排卵誘発剤)・体外受精技術は多胎妊娠を増加させることが知られている。こうしたことに対して、
Ⅱ.
A. 家族計画を考えている、および/または不妊治療を求めている個人またはカップルは、その事実について完全に通知を受ける権利がある。すなわち、
a) 多胎児の受胎に影響を与える要因
b) 多胎妊娠に伴うリスクと治療法
c) 多胎の子育てに関する事実と、家族への実践的、経済的、情緒的/心理的な影響が考慮された支援
d) 多胎妊娠における減胎措置及びそれに伴うリスクや長期にわたる情緒的影響
B. 不妊治療は治療の成果として、健康な児一人を目指すことが望ましい。すべての不妊治療サービスは、リスクを最小限に抑え、多胎妊娠、特に三つ子やより高次の多胎を防ぐための戦略と臨床計画が立てることが望ましい。
C. 不妊治療の担当部局は、多胎妊娠の数と結果についてデータを収集し開示しなければならない。これは体外受精周期(IVF cycles)で移植された胚の個数を含めることが望ましい。
同性の多胎児の卵性は見た目だけでは信頼性を持って決定することができない。卵性を判断するための胎盤の状態と最適な条件は、出産時点である。卵性の知識・情報は以下の理由で重要である。
こうしたことを踏まえ、
Ⅲ.
A. 両親は出産時に胎盤の状態の正確な記録および同性の多胎児では卵性を診断することを要求する権利がある。
B. 年長になってからも卵性の確定していない同性の多胎児は自分の卵性を確認する検査を受ける権利がある。
C. 卵性はその他の人間の特性と同様に尊重されるべきであり、同様の個人情報保護の対象とならねばならない。
第二次世界大戦の間、ふたごはナチ強制収容所に投獄され、強制的に実験に服従させられ、精神的危害、肉体的苦痛、疾患や死を招いた経験がある。こうしたことに対して、
Ⅳ.多胎児を対象としたいかなる研究も、以下を遵守しなければならない。
A. 多胎児本人および/または両親に対するインフォームドコンセントに従ったものでなければならない。
B. ヒトを対象とした実験とその他の研究を規定する国際的な倫理規定に従ったものでなければならない。
C. その研究計画において、多胎児とその家族の考え方を考慮しなければならない。
D. 2019年の 優先順位設定パートナーシップと討議論文において、多胎児とその家族により定められた研究優先順位を考えなければならない。
E. 多胎研究レジストリ(研究協力者名簿)への登録において、多胎児の参加は自発的なものでなければならない。
多胎児や多胎出産に関する経験不足、誤解、そして不適切な文書類のために、多胎であることの誤診や不適切な治療の危険が増加している。こうしたことに対して、
Ⅴ.多胎の妊婦、両親、そして多胎児は、以下の権利を持つ。:
A. 多胎妊娠の管理について十分に詳しい知識を持った専門家からケアを受ける権利がある。潜在的な合併症のリスクがある場合は特に重要である。
B. 妊娠中だけでなく乳児死亡も含めて、多胎児の出産と死亡、また当初多胎妊娠であった単胎の出産は、正確に記録されなくてはいけない。
C. 死産を含む多胎出産で生きて出生した多胎児は、医療の専門家により一組の多胎出産の一員として見なされる権利がある。
多胎児相互のきずなは、その正常な発達において極めて重要な側面がある。こうしたことに対して、
Ⅵ.多胎児はみな養護施設、養子先の家庭、養育権の調停などにおいて一緒でいられる権利がある。
多胎児は時おり、親、専門家、世間一般からセットとして扱われることがある。こうしたことに対して:
Ⅶ.多胎児は他の人間と同様に、自身のニーズ、好み、そして苦手なものを持つ個人として尊重され、扱われる権利がある。
Ⅷ. 多胎児は、両親と多胎児自身の希望に応じて、教育の場で同じクラスあるいは別のクラスに離れて配置される権利がある。
概要
ふたご/みつごをはじめとする多胎児は、受胎、妊娠、出産の経過や、健康上のリスクの問題、家族の在り方の発達環境、自己の確立の過程において類のない存在である。それ故、多胎児の最適な発達を保証するためには、多胎児とその家族は、多胎児が単胎児とは違うということを尊重し、その問題の解決に努力を払っている保健医療、社会サービス、教育にアクセスする必要がある。
妊娠中の多胎児や家族のニーズは、出産の前や後において複雑で多様である。こうしたことに対して、
Ⅰ.
A. 個人および家族は、医療専門職、社会サービス、人間関係についてのカウンセラー、雇用サービス、教育、多胎児コミュニティなど、さまざまな分野やサービスに関する情報を必要とし、それらにアクセスするニーズを持つ。
B. 個人および家族は、多胎出産の問題について十分に詳しい知識を持ち、また多胎家庭をケアするために必要な技能を持つ、医療やその他の専門家からのケアを受ける権利がある。
C. 専門機関と官庁の部門の間でのケアの調整と継続性は、ケアの有効性において重要である。
D. 健康、社会福祉、教育の専門家の学習ニーズをサポートするためのトレーニングと専門技能開発は、専門家が多胎家庭のコミュニティに可能な限り最高の医療と教育体験を提供できるようにするために不可欠である。
多胎の母親と父親は母体ストレスと出産前後の合併症のリスクが高い、そしてふたごや多胎児は低出生体重(2500g 未満)、極低出生体重(1500g 未満)、障がい、小児死亡の危険に強くさらされている。こうしたことに対して、
Ⅱ.多胎児の出産を間近にしている家族には以下が必要である。
A. 親の健康と最適な胎児の発育を促す、エビデンスに基づいたセルフケア戦略に関する教育。
B. 早産の認識と管理に関する教育。
C. 多胎児の早産を回避し、母親の健康と最適な胎児の発育を促進するためにデザインされた、出生前の各種社会資源とケア。この中には以下が含まれる。
ⅰ) 離職期間の延長および/または職務の変更。
ⅱ) 妊娠中の母親に十分な休息を提供するためのサポート。
ⅲ) 他のきょうだいの保育扶助
6. 多胎児に固有のリスク状態に対して(必要な場合は)診断と治療に対する継続的な努力を高めること。この中には双胎間輸血症候群(TTTS)を含めるが、これに限ったものではない。
7. 絨毛膜性、羊膜性、そして潜在的な合併症を念頭においた、多胎児の出産時期と分娩方式に対する配慮。
母乳栄養は早産・正期産を問わず多胎児に最適な栄養と養育を提供する。多胎児の母乳栄養あるいは人工乳栄養の過程は複雑で難しいテーマである。こうしたことに対して、
Ⅲ.多胎児が生まれる家庭・多胎児を育てている家庭には以下が必要である。
A. 早産児にとっても正期産児にとっても母乳栄養は栄養学的にも、心理学的にもそして経済的にも恩恵があるのだということについての教育。
B. 個々のニーズや希望に沿った母乳育児に関する情報とサポート
C. 多胎児のそれぞれに授乳することに対する、教育と実践的なサポート。
D. 人工乳を利用する多胎家庭のための、様々な専門家からのサポート。
E. 母乳育児および/あるいは人工乳の授乳手順を容易にするための、適切な社会資源、支援体制、そして家事からの解放
60%に至る多胎児は妊娠37 週より前に生まれ、また低出生体重児で生まれることもあり、入院の割合も高率であるため親子のきずなや愛着の形成、母乳栄養を妨げている。多胎新生児は胎児の時に一緒におなかの中に位置することで快適さを得ている。こうしたことに対して、
Ⅳ.医学的に弱い多胎児の家族は親子のきずなや愛着、母乳栄養を促進し元気づけるための特別な教育と支援が必要である。医学的に弱い状態にある多胎児に対する病院の紹介や病院の各種手続きを行う際には多胎の家族が子どもに容易に近づけるようにすべきである。この中には、入院している児としていない児のお互いが近づけるようにすること(例えば、一緒に寝ること)も含まれる。
多胎児では出産に伴う障がいや乳児死亡の危険が高くなる。こうしたことに対して、
Ⅴ.障がいを持つ児を出産した経験や一児の出生前・出生後の死亡を経験した家族に対しては
A. 遺伝子疾患、障がいや一児死亡に関連した悲しみの状態の変化に細心の注意を払える専門家によるケアとカウンセリング
B. 1人、または複数の多胎児が障がいあるいは不調により影響されている時、家族が多胎時間のニーズや能力の不一致を上手く処理するため、治療、カウンセリング、および資源へのアクセス。
C. 児の死亡を受容し、死亡した児に対する適切な哀悼を手助けする手段や方策。
新生児、乳児、年長児の多胎児がケアの支援を受けていないと、多胎児の家庭では疾患、産後鬱/感情障害、薬物依存、児童虐待、配偶者に対する虐待や不和が生じるリスクが高まる。こうしたことに対して、
Ⅵ.多胎児をケアしている家庭は、以下の諸点のために適切なサービスにタイムリーにアクセス できる必要がある。
A. 必要な分量の乳幼児の衣類や育児グッズへのアクセスを保証すること。
B. 両親が適切な休養と睡眠を取れること。
C. 健康的な栄養状態を手助けすること。
D. 子どもの安全確保を手助けすること。
E. 多胎児のきょうだいのケアを手助けすること。
F. 移動を手助けすること。
G. 医療的ケアを手助けすること。
H. 親のメンタルヘルスを守ること。
多胎児家庭ではそれぞれの児が健全に個性を持って育っていく経過を促すとともに、多胎児の間の健全な関係を励まし支援していくというユニークでやりがいのある課題を持っている。多胎児出産を取り巻く環境はその後の子どもの発達にも影響してくる。こうしたことに対して、
Ⅶ.多胎児を出産しようとする家族と多胎児を養育中の家族には以下の必要がある。
ふたごやより高次の多胎児は、誤解とステレオタイプとしての多胎児を描くメディア搾取の対象となっている。こうしたことに対して、
Ⅶ. 公的な教育、特に専門的な医療サービスや家庭サービスの提供者に対する訓練に重点が置かれているものは、より一層、多胎児に対する神話を払拭し、多胎出産の事実、および双子やより高次の多胎児の発達過程の真実を普及させることが必要である。
ふたごやより高次の多胎児は、自分たちの生物学的な性質に対する世間の無知と、多胎児の特別なニーズに順応しない杓子定規な考え方のために差別を受けている。こうしたことに対して、
Ⅸ.ふたごやより高次の多胎児は以下のことを必要としている。
A. 多胎の生物学的な情報と教育
B. 保健医療、教育、カウンセリング、そして柔軟な公共政策。つまり多胎児に固有の発達基準、個性がでてくる過程、多胎児の相互の関係性の問題を扱ったもの。例えば、以下の内容を許容し促すもの。
多胎の乳児、小児そして成人が調査研究に参加することは、疾患やパーソナリティの遺伝率、および人間の発達における遺伝と環境の相対的な影響力を科学的に理解する上で重要な貢献を果たしてきた。しかしながら、多胎児の独特の発達パターンについて学ぶべきことは未だ多い。こうしたことに対して、
Ⅹ.科学者/医療専門家は以下の調査研究をすることを奨励されなければならない。
A. 個性化、社会化、言語習得のような多胎児が影響を受ける発達過程の行動規範
B. 健全な心理的発達の状態と、すべての年齢の多胎児およびペアの仲間を亡くした多胎児に対する適切な治療的介入に関すること
C. 母乳育児、雇用政策、産後の気分障害の予防のような、育児期間中の多胎家庭の健康を促す面で効果的な戦略と介入
D. 生殖補助医療、多胎児の減数手術のような倫理問題に対する、医療専門家と多胎家庭による関与
E. 多胎児の関係を尊重する、医学的、発達的および教育的評価/治療