アメリカ合衆国のヒスパニック・黒人・白人の多胎出生率

一卵性多胎児が産まれる確率は、地域や人種による違いはほぼありません。一方、多卵性の多胎児は食生活や人種によって確率が異なると言われています。一般に、黒人種>白人種>黄色人種の順で出生率は大きくなります。しかしながら実は、それほど単純でもないのです。

次のグラフは1990年から2017年までのアメリカの双子出生率です。

※注意:出生率は分娩率(母体の割合)と異なり、生まれてきた子どもの割合です。双子出生率のだいたい半分で双子分娩率になります。



(図1:アメリカ合衆国における人種およびヒスパニック別の双子出生率)
※U.S. DEPARTMENT OF HEALTH AND HUMAN SERVICES・CDCのNational Vital Statistics Reportsのデータ群から作成

このデータによれば、僅かに黒人種の双子出生率が上回っています。しかしアメリカに限れば白人種と黒人種の間に、統計的有意差が出るほどの出生率差はありません。ただ、人種ではない区分(ヒスパニック)を区分に含めると、出生率に大きな差が生じます(p<0.001)。ヒスパニックは中南米にアイデンティティのルーツを持つ集団です。ヒスパニックの中では白人種が多数派を占めますが、黒人種のヒスパニックも存在します。

次に、三つ子以上の多胎児(スーパーツインズ)の出生率をグラフで見てみましょう。



(図2:アメリカ合衆国における人種およびヒスパニック別のスーパーツインズ出生率)
※U.S. DEPARTMENT OF HEALTH AND HUMAN SERVICES・CDCのNational Vital Statistics Reportsのデータ群から作成

グラフで示されているように、スーパーツインズの出生率には人種間で大きな差があります。でも、出生率が高いのは白人種の方です。自然妊娠に限れば黒人種の方が多胎出生率が高いことは間違いありません。しかし現実の統計では出生率は逆転しています。

なぜ、そして何時からこんなに差が開いたのでしょうか。別の1971年から1995年までのデータ(ヒスパニックを統計で分けていないデータ)を見ると、1983年頃に白人種のスーパーツインズ出生率は急激に上昇し始めています。

※”Report of Final Natality Statistics, 1995″, Monthly Vital Statistics Report, Vol.45,No.11(S), June 10, 1997, page18から引用

この出生率の上昇は2000年前後にピークを迎えた後、今度は急速に下落していきます。ここに原因が隠れています。何が原因かというと、不妊治療を積極的に受けていたか否かです。幾つかの理由から、白人種の方が積極的に不妊治療を利用していたことが影響しています。

2000年頃から学会の指針により、アメリカでも高次の多胎妊娠を避けるようになりました。ピークの頃は7000人を超えていた三つ子以上の多胎児出生数は、2017年には3917人と4000人を割っています。この2017年には、ずっと白人種が上回っていたスーパーツインズの出生率で初めて黒人種が上回りました(1990年-2016年の間は、ずっと白人種が上回っています)。もうしばらくすると、アメリカでは人種による高次の多胎出生率の大きな差は生じなくなると考えられます。つまり不妊治療という社会的な要因がなければ、人種差はそれほど目立つ要因ではないのです。

(注:双生児出生率についても不妊治療の影響があるため、人種別双生児出生率については逆に差が開く可能性もあります。)

多胎出生率は、確かに人種等で差があります。しかしごく一部の地域的な集積を除けば、社会的要因の方が大きく影響するため、一般に考えられているほど大きな差はありません。

※本ページの図1および図2は公開データを基に作成しています。図1と図2についてはPublic Domainを宣言します。どうぞご自由にご利用ください。

JAMBA理事